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これ以降の話は前回の続きです。
其の一話を見てからお読みしてください。
不意に何も解らなくなる瞬間がある。
きっとそれは今、この時だろう。
ここは何処だろう?
目の前の少年は誰だろう?
+ + +
「まぁ、座れよ。」
自分と向かい合わせになる椅子を指差しホタカが言う。
「お前は俺が創ったんだよ。」
真顔でそんな事を言う。
信じられるわけない、自分とたいして変わらない少年にそんなことを言われても。
「信じられないだろう。」
「だって、今の今まで僕は学校に行って家に帰って・・・図書館に行こうと思ってたらココに着いたんだ」
「夢だよ、全部。お前は今の今まで夢の中に居たんだ。」
「じゃぁ・・記憶があるはずじゃないか。」
「そこらが問題なんだ。お前は夢の中に沈む度記憶をなくしてる。お陰で俺は一苦労をしてるってわけさ。」
そう言って立ち上がる。続いて深い溜息を一つ付く。
「・・溜息をつくと福が逃げるんだよ。」
「溜息つかしてるのはお前だ。」
「やっぱり僕、帰るよ。僕を見てると溜息つくだろ。」
「出たって無駄さ。ここはいわば鳥籠だ。無駄に設備の整ってる。」
「じゃぁ、どうして僕がここに入ってこれたの?」
「ここがお前の帰ってくる場所だから。」
あべこべだ。
「俺が罪人だからだ。ここが鳥籠なのは。」
「どうして?」
「お前を創って本から引っ張り出したから。」
「そんなことあるわけない。」
「あったからお前がいるんだろう。」
適当な本を読むわけでもなくパラパラとめくってぼやくように言う。
「じゃぁ、僕はどうすればいいの?ここから出れなくて、知らぬ間に罪人で、記憶がなくて。」
「ここに居ればいいだろう、罪人として」
「君は嫌だろう。僕は君に作られたらしいけど君の記憶は断片すらないんだ。」
「言っちゃ何だが、もう慣れたぞ。俺は。」
本を投げ出しどうでもいいと言うように笑う。
「そんなこと言ってるんならさっさと思い出せ。」
「どうやって?」
そう悪戯気に言うと頭を小突かれた。
「・・・お前。」
「何さ。今、思い出したんだ。」
「・・・性悪。」
「ただいま、ホタカ。」
ニコリと笑って言うとまた小突かれた。
「お帰り。」
+ + +
ここは迷宮図書館。
一人の物書きと一人の本から引っ張り出された少年が居る、不思議な図書館。
そこは罪人の鳥籠でもある。
夢の館でもある。
世界には時を捻じ伏せる場所がある。
あまり信じてなんていない、
でもそんな世界があるというなら見てみたい。
そんな望み、叶うかは永遠の迷宮入りだった。
+ + +
本を返していない。
今から行けば間に合うと思う、自転車を必死で漕いでいけば。
「・・急ごう」
何処かに迷宮が在るという。
深い深い森の中に、本当かなんてそれこそ迷宮入りだ。
そんなことを考えながら自転車で道を駆け抜ける少年は"ユリ"
本人は不服な名前だ。花の百合、そういう意味だ、男の名前としては
あまり頂けない名前である。オマケに級友たちに揶揄われる。
「・・・・あれ・・・・・?」
見たこともない場所へ辿り着いてしまった。
もともと方向感覚に自信などなかったが、いつもと同じ道を辿ったはずだ。
・・・・わからない、けれど怖い。
建物がある、暗く大きい建物だ。
恐怖と好奇心が繰り返し交差する、窓から本棚が見えたのだ。
「あ、やっと来たか、新入り役員。」
窓から声が降り注ぐ、逆光で顔は見えないが自分より、2.3年上の声音だ。
「ぼさっとしてるなよ、入れ。」
人の気などお構いなしにそう言ってくる。
けれど元からの好奇心で足が動くのを停めることが出来なかった。
+ + +
「あの、入ってからなんですけど人違いじゃありませんか?」
一番にそう問う。目の前の少年はお構いなしで本をめくっている。
「やっぱ、都合の悪いことを忘れる悪癖は直ってないんだな、お前。」
溜息をついて 見ていた本から顔を上げる。
「俺の名前は"ホタカ"稲穂の穂に高いで、ホタカ。」
「あ・・僕は・・・。」
「あぁ。平気、お前の名前なら知ってる。」
「親戚か何かじゃないですよね・・・?」
首を傾げて問えば大笑いが返ってくる。
「ん~・・何から話そうかな。」
「ここは何処ですか、帰らせてください。」
「ここは図書館だよ、見ての通り。」
そういわれ立ち上がる。
―帰ろう、奇妙な空間から―
「無駄だぜ、出たってさっきまでの現世には帰れない。まぁ、当たり前だけどな。」
面白そうに笑って言う。
「ここに覚えはないか?」
「・・・ない。」
「そう、怖がるなよ。お前は忘れてるだけだ。戻っておいで、ユリ。」
そう言う声に威圧はない。あくまでも優しい声音だ。
ひとまず、戻ろう。
確かに今ココを飛び出して行っても帰る場所にたどり着けそうにない。
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